世界遺産 知床からテレワークしてみました(まとめと考察編)

知床に来るきっかけやテレワークの環境をまとめた前編はこちら

滞在した斜里町での様子をまとめた中編はこちら

足を伸ばして周辺エリアにもトライした後編はこちら

これまで3回に分けて紹介してきましたが、一言でいうと、「遠隔地でのテレワーク最高!」という身もふたもない表現に行き着きます。なぜそう思うのか、簡単にまとめてみました。

テレワークのメリット (働く側)

  •  考えのクセを取り払うことができる:人の思考は環境によってどうしても固定化されている部分があると思います。普段と違う場所、普段と違う時間帯、普段と違う景色、普段と違う食べ物に囲まれて「働く」ことで(つまりただレジャーや観光で楽しみに来ているだけとは違う形でその場にいることで)、同じ課題を考えるのでも違うアプローチをとりやすくなると感じました。
  • ニーズベースで考えることができる:自分が拠点としているオフィス、上司や同僚がたくさんいる環境、商品を扱う人であれば在庫や生産手段に近い場所にいると、どうしても知らず知らずのうちに「自分がいま持っているもの」の延長で考えることが増えてくるように思います。今回全くそういうものがない環境に身を置き、今まで交流したことがなかった現地の人達と交流させてもらうことで、「自分が今までやってきたこと、今やっていることは本当に意味があるのか」「本当に今必要とされていることは何なのか」ということを、改めて問うことができました。
  • 自分の暮らし方についても見直すことができる:仕事だけでなく、現地で暮らしながら働くということは、やはり自分の暮らし方についても本質的に問い直すことができます。移住や二拠点居住を勧めるコンテンツはたくさんありますが、実際にいきなりやるのはかなりハードルが高いのに対して、テレワークであればお金を稼ぐ手段をそのまま残したまま、自分が本当にしたい暮らしについて色々な体験をしてみることができると思います。

テレワークのメリット(迎える側)

※これはあくまで僕の体験から想像してみたものであって、当然ながら事実と異なる可能性があります。

  • 初期投資がそこまで大きくかからない:これまでは、観光だけで人を呼ぶとなると目玉となるようなコンテンツが必要だったり、建物や設備投資が必要だったりということがあったと思います。ですが、テレワークであれば基本的にはインターネット回線さえあればどこでも仕事ができる人が増えているので、あとは地域にある使われていない建物を再利用することで、初期投資を抑えることができるのではないかと今回思いました。
  • 将来移住につながったり、長期的に関係性が保たれる交流人口を効率的に増やすことができる:今回強く感じたのは、例え観光旅行と同じような短い日数であっても、その土地で「働く」「暮らす」ということを体験するとその土地への愛着や「自分が実際に生活してみたらどうか」というシミュレーションのやりやすさが全く違うということでした。生きることの本質はやはり働いて生活の糧を得て、それを元に暮らしていくということだと思うので、自分の全く知らない土地であっても「そこで働いてみる」という体験がもたらすインパクトは大きいと思いました。受け入れる地域の側からすれば、企業を都市圏から呼び込む形のテレワークという仕組みとして回していくことで、そのインパクトを色々な人に与えるチャンスが増えるということを意味します。
  • 地域の人の刺激になったり、新しい事業につながる可能性がある:上のポイントに似ていますが、観光旅行ではなく働きに来ている人は、やはりどこかそういうモードで滞在しています。そうなると、観光旅行で来ている人とは違う、仕事や事業をベースにしたコラボレーションのアイデアや、地域の人とどう連携ができるか、といった話もすんなり出来る気がします。短期的にいきなり大きな動きにはならなくても、そういった外部の人を受け入れる窓口をテレワークという形で持っておくことは、きっと地域にとっても長期的に大きな意味を持つのではないかなと思います。

テレワークを進めていく上で解決が必要だと思われる点

  • これは「どういう風になるのか事前に想像しにくい」という点に集約されると思います。実際、今回も色々と事前に情報をいただいたり、町長や行政のサポートいただく方に東京でたまたま機会があってご挨拶をしていたにも関わらず、行く前はなんとなく不安だったというのが本音でした。「ちゃんと働けるのだろうか」「生活はどういう風になるのだろうか」「何か困った時は誰に頼ればいいのだろうか」など、実際に行けばすべて杞憂だったことがわかるような心配を抱いていたことは事実で、「行けばわかる」というものは個人としてはOKだとしても企業としてはOKを出しづらいと思うので、今後はいかに「地域でテレワークするってこういう感じなんだよ」という事例やレポート、事前に「大体の感覚」がつかめる情報がたくさん流通するかがポイントかなと思います。

地域と共に学ぶということ

最後に、実際に現地の高校生や地元の方とお話して、「学ぶ」ということについて感じたことを書いておきたいと思います。(あくまで自分が見聞きした範囲なので、当然ながら客観的な事実と異なる部分が多いことをあらかじめご理解ください)

  • 斜里町では、漁業と農業がトップ2の産業で、特に漁業に携わっている人の収入は非常に多く、しかも働く期間も短いそうです。非常に良い職業であるものの、基本的には世襲制の側面があり、地元で漁師になれる人はある程度は決まっているとのこと。そうなると、漁師も農家も長男が継いで、次男以降と女性はやはり地元を離れて札幌などの都市圏に出ていくことが多いそうです。
  • 観光が漁業・農業に継ぐ産業ですが、知床の観光客は減少傾向にあるようです。そうするとやはりサービス業・第三次産業の割合が減ってくるので、「斜里には若者が就きたいような仕事が少ない」ということを色々な方がおっしゃっていました。
  • 僕らが何か見る度に「うわーすげー!」と連発する景色や文化も、地元にずっと住んでいる人からしたら生まれた時からずっとある当たり前のもので、だからこそ価値を見出しづらいという点はどうしてもあると思います。
  • この「地元の良さが感じづらい」という点は知床・斜里町だけでなくどこのエリアでもある普遍的な問題(それこそ東京などの都市圏でも同じ問題はある)なのですが、地域独自の問題点は「自分がふだん目にしているもの以外にどういう仕事や働き方があるのかわからない」ということだと思います。僕は、個人的にはこの問題を解決するのに地域でのテレワークはすごく貢献するのではないかと感じました。
  • 地域活性化でよく話が出る「移住」ですが、これって行く方にとって迎える方にとってもある意味とてもコストが高いです。行く側からすれば実際にどんな生活になるのか、新しい仕事がうまくいくのかなど、不安とリスクがいっぱいあります。迎える方にとっても、地元に変な人に来られたら大変です。ですが、テレワークという「既存の仕事を持ったまま」「一定の期間」「違う土地で働いて暮らしてみる」というのは、これらの問題を解決します。お互いにある意味お試しで、もしお互いに気に入れば移住やより長期の滞在をすれば良いし、お互いに合わなければまた別の土地や別の会社を探せばいい。
  • そしてこの繰り返しが、ある意味ランダムに「色々な会社の色々な人」を地域に呼び込むことになり、子どもたちや高校生、大学生との交流が生まれれば、そこで子どもたちは自然に「色々な選択肢」を見ることができます。
  • 地域の人にとっても学ぶ機会となり、もちろん都市圏から行く人も同じく多様な働き方や暮らし方を学ぶことができる。「働くこと」「暮らすこと」そのものについて学ぶ機会が子どもにとっても大人にとってもいまあまりに少ないと思っていて、そういう環境にずっといるといつの間にか自分の目の前にあるいくつかの選択肢しか見えなくなる。そういう状況を打破し、個人にも社会にも多様性をもたらす上で、地域でのテレワークはとても大きな可能性があると思います。

最後になりますが、今回多大なるサポートをしてくださった町長はじめ斜里町役場の皆様、知床スロウワークスの皆様、株式会社ワイズスタッフの皆様、お世話になった皆様、本当にありがとうございました!

世界遺産 知床からテレワークしてみました(まとめと考察編)” への2件のフィードバック

  1. 山本さん お久しぶりです。その節は、知床・斜里町にお越しいただき本当にありがとうございました。私自身は、ほんの少しのふれあいでしかありませんでしたが、知床スロウワークスの面々がきっと程よい対応をしてくれたんだと思います。

    私も一緒に活動した仲間たちですが、縁があって出会った外からの人に、普段着で自然体のおつきあいをしてきましたし、すでに閉校になりましたが、以前はふるさと留学ということで都市部の親子を2~3年お迎えしたことなどが、生きていると思っています。
    今回の素晴らしい内容をぜひ拡散したいと思うんですが・・・。

  2. このコメント、めっちゃ長いけどごめんね。知床テレワークの話、とても興味深く読みました。
    パリに来て、ここは2週間のバカンスが6週間ごとにあるので(!)バカンスの度に旅行に行っています。フランス国内は、バカンスが多いけどここのところの経済不調もあり、バカンスは国内で過ごす人が多いです。実際、フランスは全国のあちこちに有名な観光地があって、フランス人自身が(私達外人もそうだけど)かなりの頻度で足を運んでいます。だからフランスはパリにあらゆるものがCentralizeされていることも事実ながら、田舎も(日本と比較すると)とても活発に感じています。
    もちろん、気候がいい・平地が多い・地震がないなどのハード面で恵まれていること、個人の生活重視などの文化がそれを助けていることも事実です。でも、フランスだって田舎にはお年寄りが多くて都市と比較すると経済的に楽ではない現実はあります。それでも住民自身が自分達の住む村の持つ資源、あるいは美的な価値を知っていて、それを維持するためにコストをかけています。こうして魅力的な村の伝統・文化・景観が維持され、都市に住む人がそこにバカンスの度に遊びに来て、場合によっては別荘を買ったり、定年後の住居にその村を選んだりします(この2つの移住文化はフランスにまだ深く根付いています)。
    私はフランスに来てから、田舎の素晴らしさを知りました。山本くんが感じたことと一緒で、田舎に行くたびに抱えきれないほどの学びと感動を得るし、自分の生活、自分の人生を見直す貴重なきっかけになります。怠惰なだけかもしれないけど、同じ場所にいながら自分の頭のチャンネルを切り替えることってなかなかできない。この経験は自分が物理的に普段の生活から切り離されないとできないことだと思っています。
    そして、日本の田舎をもっと知りたくなった。日本にも美しい村が沢山あるはず。山本くんの言っていた「村の魅力を村の人が知らない」という点は、本当にもったいない。日本の村の発展のボトルネックはここかもしれない。ぜひそれぞれの土地固有の文化・伝統・景観の価値を知ってほしいし、皆で守り、育てて行きたい。と、ここに来てから結構真面目に考えています。
    知床のテレワークは、そういった美しい村を見つけてもらうための取り組みの一つなのかなと思いました。私がこの取り組みで特にいいと思うところは、この取り組みが日本人に向けられているということです。私は、村の文化・景観を尊重することを前提として、別荘や定年後の住処がそこにできること(=移住)はいいことだと思う。これがないと、産業も人口も尻すぼみになってしまうから。でもそれには大きなリスクが伴うので、そのために「住んでみる」体験ができることはとてもいいアイデアだと思いました。外国人観光客も魅力的(たぶん、特に経済的には)だけど、私が外国人観光客としてフランスで訪れる村は、もちろんフランスの美しい村に選ばれたセレブな村もあるけれど、殆どは友人のクチコミです。外にいる人にとって、その国に土着している人からの意見ほど信頼のおけるものはない。私はフランス人に「日本で一番行くべきところってどこ?」って聞かれて、最初戸惑った。(よく聞かれる。)一方、フランス人は本当にマニアックな村のストックを誰もが持っている。これって面白いなと思っています。日本人の誰もが「俺の好きな村」を3,4つ持ってたら、日本人同士でも外人とでも、話弾むよね!と思う。というわけで、日本人がインスパイアされたら、自ずと外国人観光客もついて来るんじゃないかと思っています。
    でも、家族で行けたらもっといいなと思う。日本って貸別荘が少ないから中期滞在がしにくい。ホテルに中期滞在は経済的にも生活的にも(特に子供がいると)モチベーションが下がるので、貸し別荘や貸しアパートがもっとあるといいなと思います。
    と、モーレツに話は長くなったけれど(そしてまだ言い足りないんだけど)、知床の取り組みはすっごく面白い!そして、東京で仕事もしつつ、こういうことに取り組む山本くんもすごい!!と思ったのでした。何か将来一緒にできたらいいね!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA